東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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球脊髄性筋委縮症は遺伝子異常アンドロゲンレセプターの機能破綻によって誘導される

(Proc Natl Acad Sci U S A. 106: 3818-3822, 2009)

  神経変性疾患の多くが神経細胞内の異常タンパク質の蓄積により誘導されることが明らかになっています。先天性神経変性疾患であるポリグルタミン病はCAG繰り返し配列の伸長異常により産生されるポリグルタミンタンパク質の蓄積により誘導されます。これまでに、8種類のポリグルタミン病原因遺伝子が同定されていますが、異常タンパク質の細胞内蓄積のみでは神経変性発症の特異性を説明することができず、未だ不明な神経変性発症機構が存在すると推測されます。ポリグルタミン病の一つである球脊髄性筋萎縮症Spinal and Bulbar Muscular Atrophy (SBMA)は中年男性に発症し、その原因遺伝子は男性ホルモンの核内レセプターであるアンドロゲンレセプター(AR) 遺伝子です。現在までに、我々はショウジョウバエゲノムにポリグルタミン鎖異常AR遺伝子を導入し、ショウジョウバエ複眼にて神経変性を誘導することに成功しました(図A)。そこで、このSBMAモデルショウジョウバエを用いて、神経変性発症機構の解明を試みました。その結果、ポリグルタミン鎖異常ARと細胞周期制御因子Retinoblastoma protein (Rb)の特異的相互作用が転写因子E2F1の転写活性を促進し、神経変性を誘導することを見出しました(図B)。このことから、ポリグルタミン鎖異常ARの機能破綻がSBMA発症を誘導することが明らかとなりました。従って、本研究により、ポリグルタミン鎖異常タンパク質の機能破綻が神経変性発症の一端を担っていることが示唆されました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
東京大学分子細胞生物学研究所教授 加藤 茂明
東京大学分子細胞生物学研究所教授 多羽田 哲也

図1

A 野生型ショウジョウバエの複眼(図左)、ポリグルタミン伸長異常ARの強制発現より神経変性を呈した複眼(図中央)、ポリグルタミン鎖異常ARとショウジョウバエRb(Rbf)を過剰発現した複眼(図右)。神経変性の回復が観察されました。

B 正常な場合、Rbは転写因子E2F1の転写活性を抑制しています。一方、SBMAでは、ポリグルタミン鎖異常ARとRbと特異的相互作用により転写因子E2F1の転写活性が促進していることが明らかとなりました。